「人類の終着点」フランシス・フクヤマほか
朝日新書は、戦争、AI、パンデミック、災害など地球規模の人類的危機をテーマに世界の代表的な知性に「未来予測」のインタビューを行ない、2024年の2月と3月に2冊を刊行しました。「終着点」とか「危機」とかの刺激的なタイトルですよね。(写真)
そのうち、2月の「人類の終着点」を紹介したいと思います。ここでは、戦争や民主主義の危機、人口減少や気候変動、そして人間性の崩壊などが論じられているなかで、特にAIについて多くのスペースが割かれ、著名な識者が言及しているからです。
私は、昨年(2023年)12月の本会議代表質問で、ChatGPTセミナーに参加した経験をふまえて、これから避けて通れないAI時代を見据え、デジタルネイティブ世代の活躍が人材育成の鍵ではないかと問題提起しました。
また、本年5月の本会議代表質問でも、当初の予定を急きょ変更して、本書を踏まえて「AI時代の人間教育」について、教育委員会に質しました。
AI(人工知能)については、巨大テクノロジー企業の独占による経済の偏りや知的労働がAIに奪われてしまうとの懸念があるのは否定できません。
フェイクニュースやデジタル犯罪の横行などの課題に直面する今だからこそ、AIについては、短絡的に飛びつくことも、逆に頭から否定することも適切ではないと考えます。世代を超え、衆知を総動員して、その活用の在り方を真剣に考えていかなければならないのではないでしょうか。
本書では、世界超一流の知性が多角的に論じています。
アメリカの政治学者で「歴史の終わり」を著したフランシス・フクヤマ氏は、AIについて「人間の仕事が奪われると言う懸念もあるが、逆に平等を推進する可能性もあり、変革を起こすものになる」と指摘しています。
フランスの歴史家で、ソ連の崩壊やアラブの春、イギリスのEU離脱などを予言したエマニュエル・トッド氏は 「AIに依存する事は、人間の知性の劣化につながる」と警鐘を鳴らしています。
そして、ドイツの哲学者で、新しい実在論を提唱したマルクス・ガブリエル氏は、「AIは全知全能ではなく、効率的な道具に過ぎない。しかし、人間自身を道具に変えてしまう危険を内包している」と訴えています。
また、ビジュアリストで映画監督の手塚眞氏は、父親の漫画家手塚治虫の傑作「ブラックジャック」の続編を生成AIで制作するというプロジェクトを立ち上げたところ、そこで得た結論は、AIはどこまでも人間の創造力を補完するものであり、人の心を感動させることはできないというものでした。
本書をはじめ何冊かの関連書籍を学び、私はAIの知能すなわち知力と能力を使いこなしていくには、人間の持つ「想像力」と「創造力」という2つの「そうぞうりょく」が大事だと実感しました。そのためにも、誰もが備えている優しさや思いやり、寛容の心を涵養する教育が、極めて大きな意味を持つと考えます。
ニューヨークタイムズのスティーブ・ロー記者は、AI時代の世界において、子どもたちの教育が重要になってくると指摘し、形式化された知識を使いこなすための「ハードスキル」ではなく、目まぐるしく変化する状況に柔軟に対応する「ソフトスキル」を養うために、人との付き合い方を学び、共感力を高めることが大事であり、外に出て友達と思いっきり遊ぶべきであると述べ、そこで初めて高度な分析力や問題解決能力を養うことができると論じています。
また慶応大学の安宅和人教授は、家庭教育の重要性を指摘し、学校においても授業だけではなく、放課後や休み時間にやっていることが教育の中心になると論じておられます。示唆に飛んだ考え方ではないでしょうか。
目まぐるしい技術革新を伴うハイテク時代に、政府が5年前に発表した「人間中心のAI社会原則」で述べられているように、AIを活用していくためには、1人1人の人間力の育成が土台となると考えます。こうした視点を踏まえた、血の通った「人間教育」を進めていく必要があると訴えたいと思います。みなさんのご意見はいかがでしょうか。