私の大好きな本の数々をつれづれに紹介します。

「わが人生」ゴルバチョフ自伝

2023年5月26日

今回ご紹介する書籍は、昨年(2022)8月に91歳で亡くなった元ソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフの自伝です。550頁を超える膨大な書籍で目がくらみますが、あっという間に読み終え、その後も再読しました。

それくらい夢中になってしまうのは理由があります。私は自身の公式プロフィールの「尊敬する人物」に、周恩来とガンジーと並んでゴルバチョフを挙げており、議員になる前は「周恩来とゴルバチョフを描いた小説を書きたい」という無謀な野心を燃やし、各々10冊以上の関連書籍を読破していたからなのです。(写真右)

名刺にも記載しているため、少なくない方から「なぜ共産党の人物を?」とよく訝られましたが、そのつど「東西冷戦を終結した立役者であり、自らの特権的立場を投げうってでも庶民を守ろうとしたからです」と答えていました。

周恩来と同様に、激動の時代を変革した革命児でありながら、決して武力で現状変更を強いるのではなく、どこまでも平和を希求し続けていました。そして、女性や子どもたちを尊重する誠実で真摯な人柄が、様々なエピソードを通して伝わってくるのです。

残念ながら、小説には着手できないまま、現在も「保留状態」ですが、この「おすすめ読書」欄をお借りして、ゴルバチョフ自らが回顧した波瀾万丈の人生の一端を紹介したいと思います。

まず驚くのは、若き日のゴルバチョフは筆舌に尽くしがたい壮絶な経験をしています。第一に、幼少期に祖父がスターリン粛清で投獄(その後釈放)されたこと。第二に、少年時代に父が第2次大戦に出征し、一度は戦死広報が届いて悲嘆にくれたものの、その後に無事に復員したというのです。しかも、この残虐極まりない独ソ戦で、一時的とはいえ故郷がドイツ軍に占領されていたといいます。

また、読み進めるほどに、彼が歩んだ人生の1つ1つのエピソードに魅了され、心の琴線がかき乱されるのです。(ちょっと大げさかな?)下記に箇条書き的にメモします。

・10代から農業の最前線に従事し、現場の苦労がわかる。
・国内トップのモスクワ大学で学び、有為な人材と友情をはぐくむ。
・超エリートの経歴に執着せず、地方の貧しい境遇の中で快活に日々を送る。
・愛妻は単なる美貌の貴婦人ではなく、フィールドワークを重視する学者。
・壮年期にヘッドハンティングされ、首都で1日12~16時間働き結果を出す。
・若くして獲得した権力の座に君臨するのではなく、改革のために全力疾走。

やがて、世界を二分する超大国の最高指導者として、ペレストロイカ(立て直し=改革)やグラスノスチ(情報公開)、新思考外交をリードし、東西冷戦終結という大偉業を成し遂げたにもかかわらず、民主化の奔流が激流となって収拾のつかない大混乱を招き、国家が解体するという未曽有の悲劇に直面するゴルバチョフ。その責任感あふれるリーダーシップに心打たれます。

1985年3月の党書記長就任から、91年12月のソ連大統領辞任までの6年10ヶ月は、何十年にも匹敵する息詰まる政治ドラマの連続でした。権力の魔性に魅入られることなく、人間性を見失わずに困難を克服しました。裏切りや脅迫、命の危機に直面した時も、強靭な精神力で乗り越えました。

私は驚嘆します。本書の文章が冷静かつ丁寧で、ギラギラした自己主張が全くないことを。また、政敵を罵ったり、事実を都合よく捻じ曲げることもなく、自分の至らなさを率直に認めているスケールの壮大さを。

間違いなく時代を変えたにもかかわらず、ゴルバチョフは祖国では賛否両論・毀誉褒貶にさらされています。しかし、その偉大さを歴史が証明することは間違いないと確信します。後世の人びとは、彼を正視眼で評価し、深く尊敬するでしょう。トルストイのように。そのことを静かに訴えたいと思います。