吉田たかお演説集

自転車まちづくりセミナー講演

平成23年(2011年)2月17日 剛堂会館(東京都千代田区)

※地域科学研究会からのご依頼で、東京都で開催の「自転車まちづくりセミナー」の講師として招待されました。パワーポイントを駆使して、40分の講演を乗り切り、貴重な勉強をさせていただきました。
 

【はじめに】
 皆さんこんにちは。京都市会議員の吉田孝雄と申します。本日は、「自転車まちづくりセミナー」の講師としてお招きいただき、誠にありがとうございます。緊張感でいっぱいですが、京都市議会における私たちの活動について、ご紹介させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

 昨年10月28日に、「京都市自転車安心安全条例」が可決成立しました。これは、京都市が生まれて112年で初めて成立した議員提案の政策条例でございまして、立法府である議会としての機能を大きく前進させた、歴史的な“議員立法”との評価をいただいています。

 実は、昨年の8月31日、我が議員団の代表5名が、地域科学研究会主催のセミナー「市民・利用者視点の自転車交通施策」を受講させていただいておりました。

 おかげ様で、セミナーで学んだことが、大きな力となり、無事に本会議で可決成立し、この12月より施行されております。心より感謝申し上げます。
 

【条例制定の背景】
 まず、条例制定の背景と、制定までのプロセスを申し上げます。ここ数年、自転車マナー問題への市民意識が高まりを見せていました。京都市では、放置自転車の対策を定めた「自転車放置防止条例」が昭和60年に制定され、以降6回にかけて、順次改正されていますが、走行マナーに関しての条例はありませんでした。

 平成17年ころ以降、私たち公明党議員団のもとに寄せられる市民相談の中に、自転車事故についてや走行マナー向上を求める声が多くなってきました。こうした切実な声にこたえるべく、毎回の議会におきまして、代表質問・予算委員会・常任委員会等で取り上げ、行政の取り組み充実を求めてきました。

 平成19年に、京都府議会で自転車の安全な利用の促進に関する条例が施行され、ヘルメット着用などの画期的な内容も注目されたのですが、一般市民の認知度も高くない状況で、私たち市会議員に、市民からの声が寄せられていたのです。今から思えば、京都市としても、府に条例があるからという点で、思い切った施策を打てなかったのかもしれません。

 京都市は、広域自治体である京都府とは違う、地域特性が大きく3つございます。1つは、人口の約4分の1が、65歳以上の高齢者であると同時に、学生さんが約1割を占めているという学生のまち。「多世代が共生する町」であるということです。

 2つめは、日本有数の観光地であるということ。海外からの観光客やシルバー世代の方々、「歴女」と言われる女性たちが、観光スポットを回られる際、エコで便利な自転車をレンタルで利用されるケースが増えてきており、まさにレンタサイクルの普及の初期段階といえます。

 そして3つめが、細い道、京都弁で「ろーじ」と言いますが、細街路が入り組んでおり、商店街が密集しているという点です。郊外型ショッピングモールやスーパーもにぎわっていますが、昔ながらの商店街が、まだまだ元気で、多くの市民が世間話をしながら買い物を楽しんでいるまち、それが京都なのです。

 高齢者や子どもたちと学生が混在し、世界からの観光客を受け入れる京都市は、昨年、長年の構想であった「公共交通優先のまちづくり」を軌道に乗せるべく、「歩くまち・京都」総合交通戦略を策定するとともに、自転車総合計画も改訂しました。

 その大きな要因は、自転車の関係する事故が急増していることも1つです。日本中の都市と同じ傾向かと存じますが、自転車同士および自転車と歩行者の事故が、この10年で3倍に増加。また、10年前には8.6%であった自転車事故の死亡率も24.6%に増えるなか、京都府内で発生する事故の7割が、京都市であるというデータがございます。

 そうしたなか、平成21、22年度にかけて、京都市も本格的に対策に取り組み、府警とタイアップした「自転車マナーアップキャンペーン」を開始し、啓発活動を展開するまでとなりました。

 平成22年3月には、総合交通戦略の基本理念となる「歩くまち・京都」市民憲章が制定されました。ライフスタイル転換や観光客のおもてなし向上などなど、自転車についての市民意識が向上している機運をとらえ、市民のための自転車政策を重視して、議員団として本格的に取組むことになりました。
 

【議会改革のアプローチ】
 いま、議会改革が叫ばれています。地方分権・地域主権の重要性が指摘され、一部の知事や市長の派手なパフォーマンスも影響し、市民の眼から「旧態依然」と映る地方議会への厳しい視線が注がれていると、自覚しています。

 私たち京都市会では、平成15年より、超党派の議会改革検討委員会が設置され、京都市議会改革を本格的に推進してきました。そうした中、わが議員団では、平成21年から、「議会のあり方」について、最新の事例や研究書籍を調査する等の試みを、断続的に実施してきました。

 その大きな第一歩として、平成22年3月より、議員団の政調会で政策条例を議員提案する、いわゆる“地方議会の議員立法”を模索し、本格的に議員団会議で協議を重ねてきたのです。
 

【条例制定の過程】
 4月から、断続的に議員団会を開催し、なぜ提案するのかといった意義を意識統一するとともに、テーマを何にするか、議案の内容を絞込み、具体的な調査と研究を開始しました。

 様々な政策課題が候補に挙がりましたが、なかでも、幅ひろい世代が使用する必需品である自転車でいこうと意見がまとまり、市会事務局の政務調査課と協力し、自転車保険や交通安全教育などの各種資料の調査や、他都市の事情についての情報収集を進めるとともに、条文の素案を精査していきました。

 また、府議会議員に協力を依頼し、警察行政の担当者にヒアリングするなど、政務調査を重ねました。そのうえで、市長部局の各局担当者と、市民生活のなかでの安心安全についてや、商店街の安全対策、自転車マナー向上や駐輪問題、交通安全教育など、幅広い分野で意見交換を重ねました。

 同時に、業界関係者、自転車小売業の組合理事長さんやレンタサイクル事業の責任者の方、商店街の親父さんなどとお会いし、率直な意見をお聞きしました。業界の方々から反対されるかなと心配していましたが、案ずるよりも生むが易し。みなさん大賛成で、私たちが逆に励まされました。

 このような中、骨子案をまとめて、7月15日に市長部局と他会派へ提出したという次第です。これは、政党の思惑に左右されないようにと、議会開会の2ヶ月前に議案の骨子を提出すると言う申し合わせに基づいたものです。

 ここから9月15日の議案提出までの2ヶ月間、本格的な広聴活動を展開しました。まず、7月末まで、アーケード設置の23の商店街を訪問し、聞き取り調査を実施しました。大変な猛暑でフラフラになりましたが、各議員が手分けして頑張りました。

 23の商店街理事長さんに行政への要望をお聞きしたところ、事故防止の対策を行政主導で実施してほしいとの声が、圧倒的に多かったです。また、駐輪場や自転車走行専用レーンについても、声が寄せられました。嬉しい事に、条例制定への期待の言葉も数多く頂戴しました。

 これらを受けて、京都府の商店連盟の理事さんたちと、懇談会を開催していただきました。アンケートの結果を報告し、意見交換をしたのですが、その中で印象深いことがありました。

 実は、商店連盟の理事長さんは、府の条例を審議する際の懇話会のメンバーでした。府に自転車走行について定めた条例があるのだから――というようなご意見が出るかと思ったら、逆に、商店街の安心安全という視点があることを大いに評価してくださり、賛意を示していただいたのです。これには、私たち議員団一同、大いに意を深くしました。

 その後、7月30日から8月30日までの1ヶ月間、パブリックコメントを募集しました。議員団ホームページに掲載し、ひろく告知するとともに、議員団ニュース号外を発行し、市役所の議員団室や各議員の地元の個人事務所などに設置しました。また、旧知の自転車屋さんや市民の方にお会いして、意見をお聞きしたりしました。その結果、33名の方から、62件のご意見を寄せていただいたのです。

 広聴活動の総仕上げとして、9月15日の議会開会の直前に、緊急で、自転車利用者の市民の方々にアンケート調査を実施しました。10日間の短期集中の取り組みでしたが、300名をこえる方々に協力していただくことが出来ました。

 私たち地方議員は、今までは市長部局から出される予算案や条例案に対して、質問するばかりでした。それが、今回は議員提案条例ということで、付託された常任委員会の質疑で、答弁に立たなければなりません。その答弁の裏づけとして、市民の生の声を明確にまとめておこうという狙いでした。
 

【議会での論戦】
 いよいよ議会が始まるに当たり、議員団で役割分担し、「条例制定の意義や府条例との整合性」と「商店街について」と「自転車保険について」および「自転車交通安全教育について」を、4人がそれぞれ担当。私は裏方を担当しました。

 それ以外の議員は、直前のリハーサルで質問役を買って出てくれました。ビシビシと鋭い質問を投げかけ、本番さながらのロールプレィングが展開され、終了後は、徹底した反省会。こうした団結が、実際の質疑で大いに生かされたのは言うまでもありません。

 9月15日に本会議で提案説明し、17日がメインイベントの常任委員会質疑でした。事前の準備が生きて、他党の議員からの質問にも誠心誠意の答弁を展開。「よく練り上げられている。反対するところが無い」との評価をいただきました。

 各会派での議論がまとまらず、9月末までには結論が出ない事態となりましたが、決算委員会での審査を挟んで、水面下で粘り強く議論を重ねるなか、2つの会派の合意を勝ち取ることができました。

 そして、10月27日。まずは常任委員会の討論結了において賛成多数で可決し、翌28日の本会議採決で、歴史的な議員立法を可決成立させることができたのです。感慨に浸ったことを昨日のように覚えています。

※ここで、条例の概要をスライドを通して説明しました。本HPの他の箇所で詳しく紹介していますので、ここでは割愛します。
 

【議員提案政策条例制定の意義】
 政策条例を、いちから、手作りで創りあげた経験は、私たちにとって、大きな財産となっています。

 ここで、議員の側から提案された政策条例制定の意義について、私どもの実感を交えて、申し述べさせていただきたく存じます。

 まず、第1に「地方議員にとって、大きな意識改革となった」ということです。二元代表制の中で、市民に身近な立場である地方議員が、市民生活の実感に即した政策を、具体的に創りあげる事は、大きな意義があると確信する者です。

 同時に、議会が本来の機能である立法機関としての役割を果たすものとなったという点があると思います。

 今、中央集権の限界が指摘され、地方分権、地域主権がクローズアップされているなか、議員定数削減や議員報酬カットという、まさに「身を切る」スリム化ばかりが、熱狂的に取り上げられていますが、私は、それだけでは地方議会がネガティブに陥ってしまうと危惧しています。

 クリエイティブに政策を議論し合い、プラス志向で地方自治体を活性化させていく、その第一歩が、京都市会にとっては、この議員提案の条例を議論しあったことではないかと確信しています。

 それに加え、各自治体の横のネットワークを駆使し、お互いが触発しあうことも、レベルアップに寄与するのではないでしょうか。

 もう1つの角度ですが、同じ条例でも、執行部からの提案と議員提案とは、違うという点を、今回の条例制定までの生みの苦しみのなかで痛感いたしました。

 何が違うかと言いますと、1つが、時宜を得た条例となる、つまり、時期を逸しない「タイムリーヒット」になりやすい事があげられます。

一般的に、執行部提案では、審議会を立ち上げ、何年もかかって議論を交わし、パブリックコメントやワークショップ、あるいは公開シンポジウムなどなど、段階を踏んでいきます。

 ところが、議員提案では、議員自らが選挙で選ばれた、まさに「民意」の存在であるため、議員同士の質疑がストレートに展開されるので、結論が出やすい。これが1つ言えると思います。

 もう1つが、各部局を横断する政策を条例化できること。つまり、よく言われる「縦割り」の限界を超え、議員は各部局をコーディネートするので、福祉だけとか教育だけとかではなく、幅広い内容が可能となるのです。

 この条例も、商店街は商業振興の分野ですし、交通安全教育は教育委員会。道路環境は建設、走行マナー啓発や保険周知などは市民生活の分野と、多岐にわたりますので、自分で言うのも何ですが、まさに「議員提案ならでは」と言えるのではないでしょうか。

 同時に、「議員立法」ということで、マスコミはじめ各方面から注目されますので、市民への周知が早いという利点もあります。

 ただ、難点をあげるとすれば、各党の間の意見調整がこじれる可能性があるということ。政策の内容よりも、中央の政局の影響を受けたり、裏側での「駆け引き」が展開される懸念が捨てきれないと思います。

 その部分は、健全な地方議会に脱皮するための、生みの苦しみと言えるのではないかと考えています。
 

【今後の課題】
 最後に、今後の課題を述べさせていただきます。

 1点目が、自転車利用環境向上への整備についてです。予算を確保することが大変ですし、どの道路から始めるのか、綿密な計画が不可欠です。長期的視野に立ったビジョンが重要と思います。
 
 2点目が、市民周知への広報啓発活動の重要性です。これも、一過性に終わらない、多角的な視野が重要です。縦割りを超える柔軟な発想で、議会がリードしていくべきです 。

 そして3点目が、条例制定が自己満足で終われば、何にもなりませんので、これを機に、議会活性化を一層推進していくことが大事と決意しています。

 これからも、現場第一で現地調査を重ねる中、政策を立案し、提案し、実現すること。そして、議会が自己改革をすすめ、市民から見える存在になって、市民と協働して、より良いまちづくりを、ダイナミックに進めていくことが大事と考えています。

 京都市では、議会基本条例がまだできていません。本格的に議論していくスタートラインについたところと思っています。

 市民の命と生活を守るため、地域に根差して、地道に、コツコツと前進することこそ、地方分権への大きなうねりを起こすと信じて、これからも頑張ってまいります。

 以上で、終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

(第2部では、大学教授やジャーナリストの方々と、パネルディスカッションに臨みました。全国各地から参加された地方議員さんや自治体関係者の方々から熱い質問を頂戴し、改めて「議員提案条例」の意義が大きいことを実感できました)


←戻る ▲このページの先頭へ