「絶望の国の幸福な若者たち」古市憲寿
2012年の元旦に放映されたNHKの『新世代が解く! ニッポンのジレンマ』という番組に衝撃を受け、その内容をまとめた書籍を購入して以降、瀧本哲史、坂口恭平、古市憲寿、宇野常寛といった若手論客に注目し、彼らの著作を買い込んでいます。
その中でも最年少の古市氏は、1985年生まれの20代の社会学者。慶応大学環境情報学部在学中にノルウェーのオスロ大学に留学し、現在は東大大学院国際社会科学専攻相関社会科学コース修士課程に在籍中ながら、野田内閣や安倍内閣の審議会の委員にも招聘されているというスゴイ経歴の持ち主。
2011年に出版された本書は、世代間格差や就職難に苦しむ若者たちが、実は今の中高年世代よりもはるかに現状の生活に満足しており、その意味では「幸福」であると指摘。評論家やジャーナリズムに大きな影響を与えました。
翌年には、「朝まで生テレビ!」のテーマに取り上げられ、上記のNHK番組にも2012年8月放映の第4回から出演。今年度からはMCとして毎月出演しているのです。3月までNHKで深夜に放映されていた「NEWS WEB24」の月曜日担当として、落ち着いた語り口で斬新なコメントを発信していたので、ご存知の方も多いのでは。
本書では、明治期から現代にいたるまでの「若者論」を冷静かつ客観的に分析。「近頃の若者はけしからん!」というセリフは古今東西言われ続けており、今だけのものではないことが痛烈に突きつけられています。今もエリートや評論家たちは「草食系」とか表現していますが、彼らも自分たちが若いころは「太陽族」「新人類」などとレッテルを張られていたのです。それはどの時代にも共通している世代間ギャップなのですよね。
徹底したフィールドワークで紹介する具体的な事例と豊富なキャプションを駆使して、若者たちの姿を多元的に浮かび上がらせているセンスの良さに感心しました。未来に希望はないが現状に不満もない―という「なんとなく幸せで、なんとなく不安」の実像に迫る思考力と表現力は見事の一言です。
私は、本書で描かれる若者(つまり生活に必要な物資も情報もそこそこ足りている現状に不満を抱かない彼ら彼女らのことです)が直面する混沌とした「絶望」の未来に対して、大人の1人として危機感を抱かざるを得ませんでした。今は幸せかもしれない。でも、これが20年たった時も果たして同じなのだろうか? 手遅れになる前に何ができるのだろうか・・・・・と!
古市氏は、本書で具体的な結論を提示していません。「こうあるべきである!」という力の入った決めつけをしないように言い聞かせるように。
巻末に、龍馬伝などで活躍中のイケメン俳優・佐藤健との対談が掲載されています。イマドキの若者同士がフランクにしゃべっていて、大変読みやすいのですが、ハッとさせられるフレーズがたくさん散りばめられています。
関心のある方はぜひ購入して読んでほしいので、ここでは一部のみ紹介させて頂きます。
――友達はたくさんいるし、すごく楽しいんですけど、ある意味では絶対的に孤独で、完全な理解者って人は非常に少ないんじゃないかって思い始めて。
――今にまったく不満がないっていったらウソですけど、今この現在に生きていて幸せなんですよ。(略)今が楽しければいいというよりも、先のことはわからないじゃんって気持ちはあります。
ねっ、素直で等身大の若者の声が伝わってきませんか? 私は、深刻化する高齢化時代の様々な課題を先送りしてはならないと痛切に危機感を抱いています。今の青年世代や子どもたちに、大きなツケを押し付けてしまうことになるからに他なりません。本書や、最新刊の「誰も戦争を教えてくれなかった」(講談社2013)を繰り返し読んで、その感を強くしました。
激動の時代の転換期にある今、若い世代が社会を大きく変革していくムーブメントが迫っています。私はその胎動を感じている1人です。幕末維新の激動期に、佐久間象山や吉田松陰のような若き思想家が命がけで時代を論じて若者の心に火をつけたのと同じように、21世紀の現代に古市氏や瀧本氏たちが出現したのではないかと感じています。(大げさかな?)
私は単なるおっさんの1人にすぎませんが、時代を動かすために立ち上がるであろう若者たちのために、少しでも道を切り開いて行きたい―。そう思って、日々の議員活動に取り組んでいます。思い込みの激しい独りよがりかもしれません。でも、疲れや愚痴を吹き飛ばしてくれる最高の『モチベーション』になっています。