私の大好きな本の数々をつれづれに紹介します。

「泣くな、はらちゃん」 岡田惠和

2013年3月30日

今回は珍しく、テレビドラマのシナリオ本を紹介します。

1月から3月まで毎週土曜日夜9時に放映されたドラマ「泣くな、はらちゃん」(日本テレビ系)をご覧になりましたか?

私は、第1回を小4の末娘といっしょに留守番してるときにたまたま視聴し、すっかりハマってしまいました。虜になったと言っていいくらいで、2話以降は欠かさず録画して何回も見返しています。家族から「また視てるのん?」とあきれられています。

それが昂じて、「おひさま」「ビーチボーイズ」など魅力的な作品を送り出した脚本家・岡田惠和さんが描いたシナリオブックを探し回り、ついに発見して購入しました。視聴した方も見逃した方も、ぜひ読んでほしい作品です! (まっ、再放送されるでしょうけどね・・・)

生まれて50年、数々のドラマを視てきましたが、ここまでハマったのは初めて! もちろん、シナリオブックなるものを購入したことも、です。

3月27日付読売新聞夕刊で、テレビ欄担当記者が「テレビ担当になって以来、一番いいと思ったドラマ」と評していました。

番組公式HPのBSSを覗くと、私と同じような年代の方々が、「たまたま子どもと一緒に視て子ども以上に夢中になった」とか「今までの中で最高のドラマ」――と書き込んでおられます。なぜ普段ドラマを視ない人ほどハマってしまったのか? 

漫画世界の主人公「はらちゃん」が、ひょんなことから現実世界に飛び出して、作者の女性「越前さん」に恋をするという、奇想天外なファンタジーなのですが、ピュアなはらちゃんに接する周囲の人たちの親切さに嬉しくなって心が癒されていくうちに、ハラハラどきどきなストーリー展開に感動し、心が洗われて思わず涙してしまうのです。

これは私だけではありません。誹謗中傷の嵐が吹き荒れることが多い巨大掲示板2ちゃんねるでさえ、悪意を吹き飛ばす清らかな共感のコメントが圧倒的に書き込まれているのです。びっくりですよね!

越前さんは、昭和の風情を残す港町の水産加工工場でかまぼこ製造ラインに従事する31歳の独身女性。引っ込み思案で男性と心を時めかせる機会もないので母親からヤキモキされ、ニートの弟にスネを齧られて、自らの将来を見切ってしまっているという設定。

今の閉塞した時代を象徴するような存在なのかもしれません。

内向的で人間関係が苦手な彼女は「自分なんかちっぽけでどうでもいい存在」と卑下し、社会人になってからも責任を取らされることを避け、職場で理不尽な目にあっても言い返せない。その憤懣やストレスを自分のノートに描く漫画の登場人物に語らせます。(オリジナルではなく大ファンであった漫画の二次創作という設定)

面白いのは、漫画ノートが閉じられた後に、登場人物たちが思い思いに自らの意思を語り始めるところ。「この世界はどうなるのか?」「なぜ自分は笑っているのか?」「意味のあることをしゃべりたい!」etc・・・・。

そして、自分たちの世界が曇ったままなのは漫画の創造主(=神様)の機嫌が悪いからであり、その方に幸せになってもらいたいと念願して、現実の世界に飛び出していくのですが、その主人公はらちゃんを演じる長瀬智也(TOKIO)の演技が爆笑もので、もし漫画から現実世界に飛び出したらこんなリアクションをするだろうなと、思わず納得(笑い)してしまうのですよね、これが。

越前さんを演じる麻生久美子は、週刊誌の辛口コラムニストが絶賛する“むくれ顔”と一直線に突進するはらちゃんへの疑心暗鬼の対応が、これまたナチュラルで魅力的。しかも、回を追うごとに心を開いて愛情をはぐくんでいく「乙女心」を可憐に表現し、世のおっさんたちの胸をキュンとさせているのです。(おいおい!)

はらちゃんをストレートに受け入れ、時に相談相手になる百合子さんを薬師丸ひろ子が好演。彼女は人生という戦いから降りた“世捨て人”のパートリーダーですが、実は越前さんとはらちゃんをむすびつけたキーパーソンで、「あなたが笑えば世界は輝くのです」と越前さんに訴える彼に対し、「自分が変わらないと、世界は変わらないよ」と深~い言葉を送ります。

現実世界に来るたびに、はらちゃんは「働くということは、生きること」「恋には片思いと両想いがあり、この世界は片思いでできている」「家族は喧嘩しながらも、寄り添って生きていく」「人は病気と闘い、やがて年老いていく」「死んでしまうと二度と会うことはできない」――と様々なことを学びます。

クライマックスでは、両想いになっても結ばれないことを受け入れた2人が、人間世界の残酷さ(憎悪や暴力)と悲惨さ(戦争や災害)を直視して、そのうえで至高の愛を確信し合い、お互いの世界で生きていくことを選びます。

それは、現実から逃げてばかりいた越前さんが、自らの可能性を信じ、人とかかわる大事さを受け止め、ひたむきに生きることを決意した再生の物語である――。そう、私は思います。

はらちゃんが着ていた赤いスタジャンが流行していたのは、ちょうど私たちの世代、つまり今の子育て世代がバリバリの若者だった頃。安下宿にたむろして、ギターをかき鳴らして歌ってたものです。そんなノスタルジックな雰囲気が、私たちおっさんおばちゃんの心をわしづかみにした一因ではないでしょうか。

いやぁ~、素晴らしい作品に巡り合えました。ドラマをこんなに熱く語ってしまい、お恥ずかしいです。人生でもそう滅多にないトキメキを感じてますんで、ご勘弁を。(社会人になってからは、今の女房と出会ったあの頃と98年W杯予選の熱狂の日々以来かなぁ~?)
 
PS:私の熱狂が独りよがりでないことをご了承いただきたいので、下記に2つの“トリビア”をご紹介します。

1. 人気ドラマ「タイガー&ドラゴン」で共演した西田敏行は、長瀬智也のことを「世界のどこに出しても恥ずかしくない俳優」とコメントしているとのこと。連続ドラマの主演は今作を含めて18本。テレビ番組に関する権威ある賞である「ギャラクシー賞」を3回受賞しています。(「ザ!鉄腕!DASH」「タイガー&ドラゴン」「歌姫」)
2. イラン映画の巨匠アボルファズル・ジャリリは、第2回ローマ国際映画祭審査員特別賞を受賞した「ハーフェズ ペルシャの詩」の主演に起用した麻生久美子を絶賛しています。長いですが、HPのコメントを引用します。
  撮影では、彼女は短期間でスタッフや役者たちとも打ち解け、イランの習慣と文化にもすぐに慣れました。ペルシャ語のセリフもとても上手く発音出来ていました。(略)彼女はとても聡明なので、私がほかの役者にペルシャ語で説明していることを理解しており、私があらためて彼女に英語で説明する必要はありませんでした。今回、麻生さんと一緒に仕事が出来て、非常に嬉しく思っています」