私の大好きな本の数々をつれづれに紹介します。

「1Q84」 村上春樹

2009年7月10日

いま爆発的話題を呼んでいる村上春樹の最新作を、なんと、家内が購入してきました。想定外の出来事に、うひょーっとビックリ。

議会閉会中とはいえ、天下分け目の解散総選挙がカウントダウンされている時に、小説を読んでいるヒマはありません。(当り前ですわね)・・・・・しかし、私の心の奥底はぎしぎしと疼くばかり。

そこで私は折り合いをつけました。予定している以上の活動をやりきろう、そのうえで時間を見つけて、自分のペースで読んでいこうやないか――。集中すれば、おどろくほどに仕事ははかどるもの。取り憑かれたように読みました。物凄いスピードで、録画を早送りするような勢いでドラマが進みました。

20代の時に読んだ「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」のような、おしゃれでちょっぴり思わせぶりな会話は相変わらずですが、生きる意味を無意識に求める若者が哲学的思惟を深め、社会との軋轢をとおして不器用ながらも自らの本質をつかんでいこうとする物語は、危険なまでの円熟味を感じさせました。ふんだんに描かれる「性」と「暴力」は凄みをますばかり。

本書「1Q84」が、ジョージ・オーエルの古典的名作「1984」の強い影響をうけていることは否めません。オーエルが35年後の近未来を描くことで、読者は自分たちが生きている今の時代を激しく感じたように、村上春樹が描く25年前の近過去の物語を読みながら、私たちは自分たちが生きている2009年が、実はいつの間にか紛れ込んだ異次元に過ぎないのではないかと言う錯覚にとらわれてしまうのです。

錯覚という表現は間違っているかもしれません。人間の心の奥の奥に沈んでいる根本的な実在を信じている「本能」と、それに抗って疑問を投げかけざるを得ない「理性」とのせめぎ合いが、複雑なストーリーの中で読者の心にひたひたと沁み込んでいくのではないかと、読み終えた今、そう思います。

未読の方が圧倒的に多い今、本書の内容を紹介することは許されません。まして結末など。ネットの世界から抹殺されてしまいます。だから、一言だけ許されるならこう言います。「おすすめです!」と。

買おうか買うまいか、迷っている方がおられるでしょう。本を読むことで豊かな知的満足と、未来の自分へのヒントを求めているのであれば、私は照れながらこう言います。「おすすめです。ただしセックス描写が苦手でないならば・・・・・」

最後に、絶対に外せない事実――。それは「1984」が発表された1949年に、「1Q84」を著わした村上春樹が生まれているということ。それも京都市に! ビックリしました? 私はビックリしました。