「大炊介始末」 山本周五郎
今回ご紹介するのは、山本周五郎。庶民の側に立つ人間主義の公明党議員らしく、人情味あふれる作家を選考したでしょ?
山本周五郎といえば、『赤ひげ』『椿三十郎』『どですかでん』などの黒澤明監督の名作映画の原作として有名ですよね。映画化やTVドラマ化された作品は40作を超えると言われています。新潮文庫版はほとんど全巻そろっています。えっへん!
市井にたくましく生き抜く庶民のいじらしさ、重厚かつ清新な筆致で描かれる武士たちの痛快な人間ドラマ、そしてひたむきな愛に生命をかける女性の苛烈な美しさ。いずれも、文句なしに面白い作品ばかりなので、どれを選ぼうかと悩んだのですが、私にとってのベストは『大炊介始末』。収録されている江戸が舞台の10作すべてが、珠玉の逸品ばかり。まさに“おすすめ”です。
『おたふく』は、自らの美しさをまるで信じない、底抜けに明るく人情味豊かな女性が主人公。思わずほろりとさせられる楽しい短編です。『なんの花か薫る』という素敵なタイトルの短編は、岡場所ものとカテゴライズされる娼婦が主人公の作品群の代表作。凝縮された文体に、ぐいぐいと引き込まれてしまいます。『こんち午の日』『落ち葉の隣』など、下町を舞台にした作品は、登場人物のせりふが見事です。
武家ものの最高峰が、表題作です。謎が謎を呼ぶ目まぐるしい息詰まる展開と、意表を突くどんでん返し。ハリウッド映画もビックリの凄まじい作品です。これ以上は言いますまい。未読の方はぜひお読みあれ。「あんたの言うとおりや」と感嘆することでしょう。
ちょっと異色なのは『よじょう』という武家もの。ひょんなことから剣聖・宮本武蔵を仇討ちしなければならなくなった男が主人公の物語です。この作品の凄いところは、常識として定着した既成のイメージを破壊した、ハチャメチャなところ。求道者武蔵を畏怖したり美化したりせずに、凝り固まった自意識過剰と徹底的に茶化しているのです。なんかヘンでしょ?
『よじょう』で新境地を拓いた周五郎は、悪人というレッテルを張られた歴史上の人物を逆の視線から描いた興味深い作品を生み出します。『樅ノ木は残った』の原田甲斐、『栄華物語』の田沼意次、『正雪記』の由比正雪、そして『彦左衛門外記』の大久保彦左衛門などの活躍は、手に汗握る痛快さ。歴史観が変わるという稀な経験が味わえます。えげつないくらいダイナミックですから、上質の刺激に飢えている方は、ぜひどうぞ!
※さてさて次回は、ちょっとハタケを変えて、戦記ものを紹介させていただく予定です。「平和主義の公明党議員が、そんなん読んでもええんか?」と突っ込まれそうですが、まっ、え~んちゃいます? (おいおい)