「源氏物語の時代」 山本淳子
2008年11月1日、国立京都国際会館で挙行された源氏物語千年紀記念式典に、光栄にもご招待を受け参加させていただきました。京都に生まれ育った1人として、また、日本文化を愛している1人として、感慨もひとしおでした。
ドナルド・キーン博士や瀬戸内寂聴さんの含蓄深い講演。気品と情感あふれる雅楽と舞。時空を超えて展開された平安絵巻に酔いしれました。十代のころに辞書を引きつつ悪戦苦闘して原文を読んだ時の感動が甦ってきて、形容しがたい不思議な気持ちでした。
京都活性化を願う思いのまま、2007年5月議会の代表質問で千年紀記念事業充実を訴えた私は、この1年半の間、数々のシンポジウムや展覧会などのイベントに参加するとともに、書店や古本屋さんで関係書籍を見つけては購入し、時間を絞り出して読んでいました。(と言っても15冊くらいなので、偉そうなことは言えませんけどね)
また、京都国際マンガミュージアムにも何度か足を運び、源氏物語特別展コーナーや子ども版・源氏物語の紙芝居の模様を見学しました。私が議会で提案した源氏千年紀事業の諸施策は、記念式典当日の本会場に学生招待枠を設置されたことを含め、すべて実現することができました。これは自分で言うのも何ですが、大変に名誉なことですし、誇りに思います。
これからも、源氏物語をはじめとする日本の古典文学や伝統文化が、世代や国境を越えて、多くの人たちに愛されていくよう、心から期待するとともに、私自身も研さんに励んで貢献していこうと決意しています。
さて、こんな私がこの1年半、探し続けていていた源氏物語研究書が、先日ついに見つかり、めでたく読了いたしました。恋い焦がれていたその本のタイトルは『源氏物語の時代』(2007朝日選書)。ほぼ同年代の山本淳子さんという方が著した画期的研究書です。
いかめしい研究書のイメージを覆す、お手軽な装丁ですし、語り口もソフトで親しみやすいのですが、何よりも内容が本当に深い洞察がちりばめられていて、素晴らしいの一言。紫式部や清少納言、藤原道長や彰子たちが当時の宮廷で繰り広げた人間模様が、妖しくも哀れにきめ細かく愛情豊かに活写されているのです。特に、一条天皇と皇后定子の一途な純愛が、貴族の日記や歴史文学などを駆使して丹念に分析されていて、私みたいな中年男の心さえも、感動で洗い清められるくらい。文字通り圧巻でした。
一度、原文を読んだ人には、もう一度挑戦したいと思わせるような、過去に挫折した人には、ぜひ読破したいという気を起させるに違いないような、そんな本です。まさにGoodJob! 関心ある方はぜひお読みくださいませ。でも、貸してくれと言われても、残念ながらおこたえできません。だって散逸したら、また1年くらい探しまくらなあきませんやん。
最後にエピソードを紹介します。名優アンソーニー・ホプキンスの当たり役といえば、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターと、衆目の一致するところ。2007年に公開された映画『ハンニバル・ライジング』は若き日のハンニバルを描いていますが、彼に影響を与えた叔母が日本人であるという設定で、しかも名前が「レディー・ムラサキ」なのです。こんなところにも紫式部が登場しているのでびっくりしました。それほどのインパクトを欧米に与えているのだという一例だと思います。